目一鬼(まひとつのおに)、阿用郷(あよの里)の鬼

もののけ図録

奈良時代の古文書に登場する日本最古の鬼

 目一鬼(まひとつのおに)は奈良時代に書かれた『出雲国風土記(いずものくにふうどき)』に登場する一つ目の鬼です。出雲国(現在の島根県)にて、次のように語られています。

 とある親子が畑を耕していると、赤い体をした一つ目の鬼が現れました。鬼は息子を捕まえ喰らおうとします。両親は近くの竹藪に隠れ、息子の様子を伺います。そんな両親に向け息子は「あよ。あよ。」と叫びます。(「あよ」は「あよぐ」という古語で「動く」という意味)竹藪に隠れた両親に動くなと警告したのかは分かりませんが、息子は鬼に喰われ、両親の命は助かりました。このことからこの地は「阿用郷」と呼ばれるようになったそうです。

 そもそも、「鬼」という言葉は、古代中国から日本に伝わった言葉です。現代の日本人がイメージする赤い体に角のある妖怪ではなく、死者の魂、幽霊を指す言葉でした。同年代に成立した『日本書紀』にも鬼の記述はありますが、霊を表す言葉として使われています。よって、目一鬼は文献に登場する最古の鬼といえます。

目一鬼の正体と他の妖怪との関連

 この目一鬼の正体にも諸説ありますが、最も有名な説は鍛冶場で働く人々ではないかとされています。目一鬼の身体的特徴が単眼、もしくは隻眼であることで、これは鍛冶に従事する職人によくある特徴です。火の色を見るために片目で見た説や火を見続けることにより失明した説から鍛冶職人は片目と言われることがあります。

 この他、神話に出てくる神様も鍛冶に関する神は一つ目で描かれることが多々あります。日本神話における鍛冶の神天目一箇命(あめのまひとつのみこと)やギリシャ神話におけるキュクロープスも一つ目で描かれます。また、鬼の特徴として体表が赤く表現されることがありますが、これも高温の鍛冶場で働くことにより皮膚が赤く爛れた職人の様子から来ていると言われます。

 実は、このように鍛冶職人の特徴をもった妖怪は数多く存在しています。一目連や一本だたら、一つ目小僧などが単眼や隻眼、片足などが共通する特徴です。これらは大陸から伝来した鍛冶技術を有する人々に対する偏見や差別から生まれた妖怪といえます。

メディア作品に見る鬼

 日本における妖怪で最も有名と言っても過言ではない「鬼」。これまで数多くのメディア作品で取り上げられています。ここでは特に有名なものを紹介します。

 原作:真倉 翔先生、漫画:岡野 剛先生による『地獄先生ぬ〜べ〜』においては、主人公鵺野鳴介の左手に地獄の鬼が封じられており、この力を使って子どもたちを守るストーリーが展開されています。妖怪の中でも特に強力なものとして別格の存在が描かれていますね。

 吾峠呼世晴先生による『鬼滅の刃』では鬼舞辻無惨率いる鬼と人間の戦いが描かれています。最近の作品では、篠原健太先生による『ウィッチウォッチ』には魔女修行中の若月ニコを守る使い魔として登場する乙木守仁が鬼の末裔とされています。

 また、古典などの世界において日本三大妖怪として語られる「酒呑童子」や「大嶽丸」も鬼の首魁として悪行を重ねています。ゲームの世界では「Fate Grand Order」において酒呑童子がアサシンとして活躍していますね。そのほかにも多数の作品で鬼のキャラクターが魅力を十分に発揮しています。

図録データ

力:4 人間を捕らえて貪り喰らう力を有する

知能:2 息子の言葉を聞いて竹藪の両親に気づかない(人語を解さない)

大きさ:4 人の体躯より大きいと考えられる

危険度:4 人喰い鬼の一種 行き合うと命を落とす

特殊能力:1 特殊な能力は持たない

遭遇率:出雲国大原郡阿用郷にのみ確認されているため遭遇率は低い

出現地域:島根県雲南市の一部、島根県邑智郡日貫地方や石見地方にも同様の一つ目の妖怪が出現

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