しょうけら、三尸(さんし)

もののけ図録

屋根より人の生活を覗き疫病をもたらして寿命を奪う妖怪

 この妖怪は、屋根や天窓から人々の生活を覗き病気をもたらしたり寿命を奪ったりする疫病神のような性質を持つ危険な妖怪です。江戸時代の画家佐脇嵩之(さわきすうし)先生の『百怪図巻』や鳥山石燕先生の『図画百鬼夜行』などにおいては人型に近い獣のような姿で表されています。

 医療技術の発達した現代において、病気は菌やウイルス、体の機能不全により起こることがわかっていますが、昔はもののけの仕業とされた時代がありました。平安時代藤原実資によって書かれた『小右記』にも陰陽師が占った結果、病を引き起こした鬼の名前がいくつか記されています。鎌倉時代に描かれた「春日権現験記絵巻 第八」には建物の屋根から除くもののけと病気で苦しむ住人らしき姿が描かれています。しょうけらはそんな病や伝染病に対する恐怖から生まれた妖怪と言えるかもしれません。

文献に見るしょうけら=三尸の関係性

 実は、しょうけらについては江戸時代以降の妖怪図絵による伝承がほとんどで明確な記述が確認されません。一説には民間における庚申信仰と関連付け、しょうけらは三尸(さんし)と呼ばれる人間の体の中に潜む虫を同一視されます。三尸は「上尸・中尸・下尸」の三体の虫に分かれており、庚申の夜、人間が寝ていると体から抜け出し天帝に人の悪行を告げ口することで寿命を減らすとされています。(庚申とは、十干の庚(かのえ)、十二支の申(さる)が重なる時を指し、60日周期で訪れます。)庚申の夜には、三尸が体から抜け出ないよう青面金剛(しょうめんこんごう)と呼ばれる鬼神を祀り徹夜で過ごしたそうです。(庚申待、庚申講)

 この、庚申信仰については日本各地に寺社や言い伝えが残っており多くの人々に信じられていました。元々は中国から伝来した道教の思想です。唐の時代に書かれた『太上除三尸九虫保生経』には三尸の姿が図画が記されており、上尸が道士の姿、中尸が獣の姿、下尸が牛の頭部と人の片足が結合した姿で描かれています。このことから、しょうけらは中尸を具象化した姿とする考えもあるようです。窪徳忠先生による『庚申信仰の研究』では、ショケラと呼ばれる半裸の女人像をしょうけらと結びつける考えも見られます。

メディア作品に見るしょうけら

 伝承に乏しく正体不明な点からメディアにおけるしょうけらには自由な解釈が与えられることが多く、いくつかのメディア作品において取り扱われています。

 原作:真倉 翔先生、漫画:岡野 剛先生による『地獄先生ぬ〜べ〜』においては「告げ口妖怪・三尸の巻」、「妖怪しょうけらが窓から覗くの巻」とそれぞれの妖怪が単独で登場しています。

 水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」では2007年放送の「妖怪はゲームの達人!?」にて、窓から覗くしょうけらが自身の影を操るという設定が追加されていました。

 2010年発行、椎橋實先生の『ぬらりひょんの孫』13巻では敵方の妖怪として、三尸の性質を全面に出したしょうけらが描かれました。どの作品も正体不明の部分を上手に生かしており、しょうけら・三尸という妖怪の魅力を読者に伝えてくれます。

図録データ

力:3 家屋の屋根にしがみつき疫病を蔓延させる

知能:3 人間の行動の善悪を判断し、報告する程度の知能を有する

大きさ:3 人体の中にいるときは二尺程度、図絵に示される姿は屋根の大きさから牛や馬程度と思われる

危険度:4 出現した家屋の住人は命の危険に晒される

特殊能力:3 疫病を蔓延させる。人の寿命を縮める。

遭遇率:60日に一度体から抜け出るため遭遇率は高め、しかるべき対処をとろう

出現地域:庚申信仰の根付いていない北海道、沖縄、高知を除くほとんどに出現

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