強風と共に現れ、人を切り裂く正体不明の妖怪
鎌鼬は江戸時代ごろから、雪国を中心に本州、四国に多く現れたとされる妖怪です。野外を行く旅人などが一陣の風が吹かれ、自身の体を見ると痛みもないのに裂傷ができている。タチの悪い鎌鼬だと激痛を生じ、命を落とすこともあったと伝わっています。
一般に手に鎌のついたイタチのような姿で知られていますが、明確な正体を持たず、目に見えない鬼神や三人組の神様、場合によっては大雪によって命を落とした蟷螂というケースもあるようです。古来から野山に吹く風を、日本人が神聖視し恐ることから生まれた妖怪と言えるかもしれませんね。そのため、名前も鎌鼬以外に「鎌風」や「野鎌」、「蟷螂坂」などの名前で知られています。
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文献に見る鎌鼬
文献に見られる最古の記録は、江戸時代前期の文人山岡元隣先生による『古今百物語評判』とされます。元隣先生の没後、息子の元恕によってまとめられ1686年ごろに世に知られるようになりました。
その後、江戸時代後期の1776年、鳥山石燕先生の妖怪画集『図画百鬼夜行』に紹介される窮奇(かまいたち)が描かれ現代のイタチの姿が広まったようです。
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なお、窮奇とは、中国の『山海経』にも語られる妖怪で、「ハリネズミの毛を持った牛」や「翼を持った虎の姿」で描かれ人間を食べる凶悪な妖怪です。この窮奇が、広莫風と呼ばれる北風を起こすと考えられていたため、同一視され訓読みに「かまいたち」が当てられたと考えられています。
他には、1814年ごろ根岸鎮衛先生のまとめた随筆『耳袋』には「つむじ風に巻かれた子どもの背中にイタチのような足跡が残っていた話」が紹介されています。ほぼ同時代、1850年に三好想山先生の記した『想山著聞奇集』には、鎌鼬に遭遇した人々の傷口の深さについて語られており、傷ができる高さが一尺(約30センチメートル)程度だったことなど詳しく紹介されています。
鎌鼬の正体とユニークな対処法について
鎌鼬の正体について詳しく書かれているのは、井上円了先生の『妖怪学講義』です。理学部門の第八講、変事編にて、上記の文献に紹介された鎌鼬について紹介した後、以下のように述べています。
今日一般に説くところによれば、空気の変動によりて空気中に真空を生じ、もし人体の一部その場所に触るるときには、外部の気圧を失うより、人体内部の気の外部に迸発せんとして、我が皮肉を破裂せしむるものなりという。
円了先生は、山口県の天野六郎氏と秋田県の佐々木甚之助氏の解説を紹介し、「何らかの要因により真空状態となった場合、体内の空気が散出する場所を求め、体外に向かっていく際、血液が噴出する。または、猛烈な勢いにより枯れ根などに当たることで切り傷を生じる。その後、真空に外気が勢いよく押し寄せるため、止血され血が流れない。」と述べ、鎌鼬が真空に由来する自然現象の妖怪、物理的妖怪と断じています。
この説については自然界において、真空状態ができるのはおかしいと批判もありますが、烈風による鋭い傷が正体不明の傷に見えた点では納得のいく理論として受け入れられているようです。

では、そんな鎌鼬に行き遭ってしまったら、傷をつけられてしまったらどうすればいいのか。東北地方では次のような言い伝えがあります。
「古い暦を黒焼きにし、その粉を傷口に塗るとたちまちよくなる。」
暦が薬として使われる、何とも奇妙な言い伝えですね。
また、『古今百物語評判』では、切り傷にあっても「そのことになれたる薬師」ならば程なく癒えるとされており、鎌鼬による裂傷が治る傷だったことが伺えます。
徳島県では、同様の現象を野鎌といい、万一行き遭った際には「仏の左の下のおみあしの下の、くろたけの刈り株なり、痛うはなかれ、はやくろうたが、生え来さる」と呪文を唱えるといいとされます。この野鎌は墓地で草を刈った鎌が姿を変えた付喪神の一種なのだそうです。物をほったらかしにすることを諌める妖怪でもあるのかもしれませんね。
メディア作品に見る鎌鼬
風と共に現れ鋭い切り傷を残す鎌鼬は多数のメディア作品に登場しています。
水木しげる先生による『ゲゲゲの鬼太郎』では両手に鎌をつけたマントを纏った男の姿で描かれ侍のような古風な口調が特徴です。主に敵として現れることが多く、妖怪城のエピソードでたんたん坊や二口女と協力して一度鬼太郎を倒すことに成功してます。アニメ作品では2期以外に登場しており、ぬらりひょん側の妖怪として敵対することもありました。
原作:真倉 翔先生、漫画:岡野 剛先生による『地獄先生ぬ〜べ〜』においては「三匹が斬る」に登場し、イタチ型のかまいたちが三匹一組で活動しているというキャラクターとなっていました。一匹目が転倒させ、二匹目が斬りつけ、三匹目が薬を塗る。鎌鼬の伝承を生かしたユニークな設定ですね。三匹目のかまいたちを栗田まことが連れ帰ったことで、凶悪化したかまいたちも非常に強力でした。
椎橋寛先生による『ぬらりひょんの孫』では、奥州遠野一家体に所属する妖怪として描かれました。頭にバンダナを巻いた黒髪の青年の姿をしています。風を使役した強力な斬撃を出すことができ、畏れの発動を知らない主人公「奴良リクオ」に戦い方を教えた人物でもあります。後にリクオが妖怪の力を纏えるようになってからは「襲色紫苑の鎌」に姿を変え、力を貸します。
正体は人間大のイタチの姿で少し可愛らしいですね。
図録データ
力:4 重いものを動かしたりはできないが鋭い切り傷を残す
知能:2 正体を神様とする説もあるが意思の疎通などは確認されていない
大きさ:1 小さなイタチ程度と認識されている
危険度:3 痛みのない怪我を負う。稀に命に危険が及ぶことも
特殊能力:2 風の力で切り傷を残す
遭遇率:江戸時代以降、日本各地で出現が確認される
出現地域:本州の広い範囲から四国にかけて出現する


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