夜道に現れる炎をまとった車輪の怪異、行き合い、その姿を見つめると…
これらの輪入道(わにゅうどう)、片輪車(かたわぐるま)は京都府や滋賀県を中心に関西地方に伝えられる妖怪です。その姿は牛車の車輪にある轂(こしき)に、年老いた男性の顔が浮かび、炎に包まれている様子で表されます。この怪異に行き合ってしまい、姿を見つめると魂を抜かれたり、子どもが拐われたりするなどの危険があります。
大昔、今から1000年以上前の平安時代に、この国を支配していた貴族たちが移動手段として使っていたのが牛車(ぎっしゃ)です。輪入道や片輪車はこの牛車の車輪が妖怪化した姿とされます。車輪の中心に男の顔が現れるものを輪入道、女性の姿を伴うものを片輪車とする説もあり、鳥山石燕先生は両者の妖怪を別々に描いています。

文献に見る輪入道、片輪車
実は、鳥山石燕先生の『今昔画図続百鬼』において輪入道は男の顔が、片輪車は女性の姿を伴って描かれており、それぞれ次のような解説が書かれています。
車の轂に大なる入道の首つきたるが かた輪にてをのれとめぐりありくあり これをみる者魂を失ふ 此所勝母の里と紙にかきて家の出入の戸におせば あへてちかづく事なしとぞ
この文は、輪入道の解説で「車の轂(車輪の中心の部分)に、大きな入道の首がくっついていて、それがぐるぐると回りながら歩きまわっている。それを見た者は、あまりの恐ろしさに魂を失ってしまう。「この場所は勝母の里」と紙に書いて家の出入口の戸に貼っておけば、その首は決して近づいてこないという。」と書かれています。
これは、『諸国百物語』に描かれた京都の東洞院に現れた片輪車を輪入道のベースとして解説していることがわかります。この話では、怪異が自分の姿を見た女の3歳になる子どもの半身を裂いて持ち去ってしまう恐ろしい結末を迎えています。「勝母の里」は古代中国の思想家孔子の弟子の逸話から来ていると考えられますが、直接の関係性は不明です。
むかし近江国甲賀郡よるよる大路を車のきしむ音したり ある人戸の古く方よりさしのぞきみるうち 母ありし小児いずこかゆきし つみとがはわれにこそあれ 小車のやるかたわかぬ子をじかくしそ そのよ女のこえわく やさしの人 さらば子を返すなりとて なげ入れる そのうちに 人おそれてあつくとざりしとうや
こちらは、菊岡米山氏の『諸国里人談』の2巻には近江国(現在の滋賀県)に現れた片輪車の伝承が残されており、片輪車は母の悔恨を受け子どもを返し、人前に姿を現さなくなる結末となっており、『今昔図画百鬼』にも女性的な片輪車が描かれています。同様の話が信濃の国の民話にも登場しますが、これらの話が伝わったものと考えられるでしょう。

輪入道の正体やルーツ
その特徴的な姿から見る人の印象に強く残る輪入道ですが、その由来やルーツがはっきりとわかりません。妖怪の特性として、「覗き見るものや自身の姿を見たものの魂を取る」、「子どもの命を奪う残虐な一面と赦しを与える二面性」が挙げられます。
ただ、不吉な存在としての存在感も感じられますが、火を纏う車輪の姿、魂を連れ去る姿には妖怪「火車」を連想する人もいるようです。石燕の描く妖怪画にしては、車輪の色合いも黒が色濃く描かれており、その炎も相まって地獄のイメージがありありと感じられますね。行き合うものに理不尽な死を与えたかと思えば、唐突な赦しを与える。死そのものへの恐れが妖怪「輪入道」や「片輪車」として形作られてきたのかもしれませんね。
このような、行き合うと命を落とす、不吉であるという考えは平安時代に貴族がおそれていた百鬼夜行も連想されます。『百鬼夜行絵巻』にあるもののけたちもその多くが付喪神(つくもがみ)でした。輪入道も打ち捨てられた牛車の付喪神と言えるのかもしれませんね。
メディア作品に見る輪入道
現代のメディア作品においてほとんどは輪入道の名前で登場することが多いです。地獄少女プロジェクトによる『地獄少女』には主人公の閻魔あいに付き従う三藁の一人として登場します。坊主頭の老人の姿に黒い藁人形、車輪型の輪入道の姿と変化し活躍します。過去は人間であり、後悔の年から妖怪化した設定が印象的でしたね。
また、『ゲゲゲの鬼太郎』では、人間の魂をダイヤに変え、そのダイヤを食べる妖怪として登場します。作品により敵ではなく、味方として登場することもあり、妖怪四十七士の京都代表となっていましたね。ゲーム『大神』ではバリエーション豊富な輪入道がボスの一体として登場しますね。
図録データ
力:3 実体があるか不明 子どもを連れ去る程度の力がある
知能:4 母が赦しを乞うために書いた和歌の内容を理解しているため人と同等の知能がある
大きさ:3 車輪中央の顔は巨大だが、全体の大きさは通常の牛車の轂大の大きさ
危険度:4 遭遇すると命の危険がある
特殊能力:3 姿を見たものの魂を取り去る
遭遇率:出現地域が限られているが夜道で遭遇する可能性が高い
出現地域:京都府、滋賀県を中心とした関西地方、長野県に出現
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