貧乏神(びんぼうがみ)、窮鬼

貧乏神(びんぼうがみ)、窮鬼(きゅうき) もののけ図録
貧乏神(びんぼうがみ)、窮鬼(きゅうき)

怠け者の家に取り憑き、暮らしを困窮させる神様

 ボロボロの着物を身に纏い、小汚い老人や小男の姿でやってくるとされます。怠け者を好み、家にいつかれると何をやっても貧乏になってしまう恐ろしい存在です。妖怪としてひとくくりにされてしまうことが多いですが、歴とした神の一柱であり鎌倉から室町の時代には人々の間で語られていました。昔の人が自身ではコントロールできない事物を神格化し付き合おうとしたことがわかる存在ですね。

 そんな貧乏神は追い払う話と一緒に神として祀られる話。福の神に転ずる話なども現代に伝わっています。

 別名を窮鬼ということもあり、こちらは古代中国神話の三皇五帝の一人である顓頊(せんぎょく)の子が由来とされています。上等な服を与えても自ら破いたり燃やしてしまったりして台無しにしてしまう変わり者で死後、周囲を不幸にする鬼(霊)と変わったというのです。中国の民間信仰では冬に窮鬼を送る行事も行われていたそうです。古代中国の文献は残っておらず詳しいことはわかっていませんが、顓頊の子どもたちは病をもたらす鬼など悪き存在に変わったと伝えられているそうです。ちなみに、顓頊は有名な黄帝(こうてい)の次代の王だったとされている人物です。

文献に見る貧乏神

 日本における最古の記録は1279年に無住道暁がまとめた『沙石集』です。仏教的な教えをまとめた説話集ですが、この一説に貧窮殿(貧乏神のこと)を桃の枝で追い出す話が登場しています。

 文明13年(1481年)の六月ごろ、応仁の乱で荒廃した京の様子を表す表現として「堺の福神の女房達が入洛し、京都の貧乏神の男達が堺へ下った」と記されていたようです。『古代からの視点』(上田正昭著)

 他には、津村淙庵先生の『譚海』にて昼寝する男が夢で出会った貧乏神の話が紹介されています。また、滝沢馬琴先生と山﨑美成先生による『兎園小説』(とえんしょうせつ)では、江戸後期に武家の屋敷から僧体の貧乏神が出ていき家運が上向いた話が語られています。

 井原西鶴先生の『日本永代蔵』や民間に伝わる伝承などでは、貧乏に苦しむ善良な人の前に姿を見せ、貧乏神を祀ったり追い出さずに貧乏神に優しく接していると想いもよらぬ結末を迎えます。

貧乏神の正体(一考察)

 先述したように、貧乏神の原型となる存在は古代中国神話の窮鬼とも言われますが、中国神話に由来し、日本に伝わったとすると飛鳥時代や平安時代から名前を知られていてもおかしくありません。よって、直接的に中国から伝わった妖怪(神)とは考えにくいのではないでしょうか。

 一つの説として、貨幣の流通とそれに伴う民衆間の格差が生み出した妖怪と考えられるかもしれません。貧困には程度があり、絶対的貧困と相対的貧困があるとされます。農耕技術が未熟で生産性の低かった飛鳥時代から平安時代にかけては絶対的貧困により、民衆の暮らしは苦しいものでした。しかし、時代が進み生産性が高まるにつれ人々には余裕が生まれ他者と自分を比べることを始めます。すると、他人と比べて自分がどれだけの富を持っているのかが気になってしまいます。そんな満たされない気持ちを妖怪の仕業にしたかった人々の思いが生んだ存在なのかもしれませんね。

 実際に土倉(どそう)と呼ばれる金融業を生業とする人々が日本の歴史に現れ始めたのも鎌倉時代ごろからとされています。神と名前が付いてはいますが、古事記や日本書紀など、貨幣経済が流通していなかった時代には同様の神が登場しないことも相対的な貧困と貧乏神を結びつける証左とも言えるかもしれません。

貧乏神の対処法

 そんな貧乏神ですが、新潟県や愛媛県では囲炉裏と関連づけて語られることが多く、「大晦日に囲炉裏で勢いよく火を燃やすことで追い出せる」や「囲炉裏を深く掘り進めると貧乏神が出てきてしまう」などとも伝えられているようです。

 『譚海』では、男の夢の中に現れた貧乏神が、「貧乏神は焼き味噌を好む。焼き味噌を拵え、川に流すと貧乏神を祓える。」と対処法を教えているのも面白いですね。

 また、『日本永代蔵』や各地に伝わる伝承では、貧乏神に憑かれるも懸命に働き続けたり、貧乏神を祀ることで福の神と転ずる話も伝わっています。自身ではコントロールできない富貴を神に見立て祭り恐れることで上手に付き合おうとした当時の人々の心が日本らしくて素敵ですね。

メディア作品や実際の寺社に見る貧乏神

 取り憑いた人を貧乏に突き落とす貧乏神はアニメやゲーム、実生活など様々な場所で活躍(?)していますね。

 原作:真倉 翔先生、漫画:岡野 剛先生による『地獄先生ぬ〜べ〜』においては「最強の敵!?」に登場し、心中未遂を起こす母娘を助けた主人公の鵺野鳴介に貧乏神が取り憑きます。極貧状態のぬ〜べ〜がお金だけでなく住む家も火事で失い、校庭でテント姿に恐ろしさを感じたものです。お金に執着しない心が物語を解決に導く点も示唆に富んでいて素晴らしい話でしたね。

 ゲーム監督さくまあきら氏とハドソン(現コナミデジタルエンタテインメント)が開発・販売した「桃太郎電鉄」シリーズにも貧乏神は登場します。このゲームは、日本全国を巡って物件を購入し資産を増やしていく内容です。そのおじゃまキャラとして登場するのが貧乏神です。多種多様な方法でプレイヤーの所持金を減らしてくるので、ストレスを感じるのですが、ユニークな言動で憎めないキャラクターとしてゲームを彩ります。ただし、この貧乏神は進化してより恐ろしい被害をもたらすことも…。

 東京都文京区春日の牛天神北野神社の脇にある大田神社という祠です。ここは江戸時代の小石川に住む旗本が貧乏神に感謝し、祠を建て祀ったところ、その後福を授かったことに由来するそうです。この神社で願掛けし、貧乏神を招き入れた後、満願の二十一日目に送り出すことで福を授かると伝えられているそうです。「福のために禍を招く」少し怖いような気もしますが、霊験あらたかな神社を参詣するだけでもご利益がありそうですね。

 また、浅田次郎先生の小説『憑神』でも祠に願掛けした旗本が三柱の神に憑かれる話が描かれていますね。妻夫木聡さん主演で映画化もされているので、一度見てみると面白いかもしれません。また、堺雅人さん、高畑充希さん主演の映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』では物語のサブキャラクターとして登場した貧乏神さんが意外な活躍を見せていましたね。

図録データ

力:2 古代中国の窮鬼は痩せほそり貧弱だったと伝わる

知能:4 人間と意思疎通を図ることができ怠け者の性根を見破ることもできる

大きさ:3 小柄な老人や小男の姿と伝わる

危険度:4 取り憑かれると命を脅かすほどの貧乏になる

特殊能力:4 運気に見放されやることなること全て裏目にでる。丁重に祀ることで福の神に転じることも

遭遇率:鎌倉時代以降、日本各地で出現が確認される

出現地域:本州、四国、九州の各地に出現

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