座敷童子(ざしきわらし)、蔵ぼっこ

もののけ図録

家屋の奥座敷に住み着き福をもたらす存在、しかし、家を去ると…

 この座敷童子、蔵ぼっこは日本家屋の奥座敷に住み着きその家に幸福をもたらすとされる存在です。一見福の神ような妖怪ですが、座敷童子が家を去ると貧乏になったり、災難にあったりしてその家は没落してしまうと言われています。姿形には諸説あり一般的なイメージにある女の子の姿もあれば、男の子の座敷童子、双子の座敷童子、13歳程度の座敷童子などが文献に残されています。共通する性質は家につけば豊かになり、離れれば廃れるという点。それから、非常にいたずら好きな点です。

 実は、江戸以前の文献等に名前は存在せず、明治時代末期に柳田國男先生が『遠野物語』や『石神問答』において、岩手県遠野市土淵村の佐々木喜善氏から聞き取った話をまとめたものが有名になりました。しかし、岩手県や青森県の民話にも同様の家につく妖怪が古くから言い伝えられています。柳田國男先生は、日本人の住まいに対する霊的な感覚が生み出した「家の妖怪」と述べ、産土神との繋がりを見出そうとしていました。亡くなった家族や子どもの霊が神となって家を守るという神道的な考え方にルーツを持つ妖怪なのかもしれません。

 なお、関東地方では同様の妖怪を蔵ぼっこと呼び、こちらは古い土蔵に住み着く妖怪とされています。

佐々木喜善氏による座敷童子報告

 柳田國男先生の遠野のにおける伝承研究に協力した民話収集家・郷土史家が佐々木喜善先生です。遠野に伝わる伝承に詳しく座敷童子についてもさまざまなことを語っています。座敷童子には「チョウビラコ」、「ノタリバコ」、「ウスツキコ」と呼ばれる分類があることや座敷童子の去った家で食中毒があり、一人の女の子を残して全員が亡くなってしまった話などが有名です。他には、1910年(明治43年)、土淵村の尋常小学校に座敷童子が現れた話も残しています。この座敷童子は、尋常一年生の児童たちと一緒に遊び戯れましたが、上級生や大人たちには見えなかったと言われています。遠野町の小学校からも見物に来た人がいても、やはり見たのは一年生の児童だけで、毎日のように出現していたとのことです。

 このように、佐々木喜善先生は『遠野物語』の編纂に貢献しただけでなく『東奥異聞』を自身でまとめるなど、故郷に伝わる伝承を後世に伝えた功績が高く評価される人物です。

座敷童子のルーツ(子どもの霊、間引かれた赤子霊、神話に見る類似)

 現代でも座敷童子は人々に親しまれています。岩手県二戸(二戸)市の温泉街にある「緑風荘」という旅館では奥座敷の槐(えんじゅ)の間と呼ばれる部屋に座敷童子が現れ姿を見た人に幸運をもたらすと今でも根強い人気を誇っています。この旅館に現れる座敷童子は、南北朝時代に実在した藤原朝臣藤房(万里小路藤房)の子ども、亀麿様の御霊と伝えられています。このように命を落とした幼い魂が家族を見守るために超常的な存在に身を変えたという説も存在するようです。

 また、座敷童子の伝承を語るにあたり避けては通れないのが間引きの因習です。原田信一先生による『近世に於ける人口制限の実体と民衆の児童観』において述べられているよう、近世以降の我が国では口減らしとして幼いうちに命を奪われる子どもたちもいたとされます。これらの赤子霊が転じて家に福をもたらすという考えが座敷童子のルーツと言われます。東北地方に伝わる「こけし」の俗説と通じる点はありますが、資料的な裏付けに乏しい説と言えるでしょう。ですが、妖怪としての不気味さも際立つためこの説を支持する愛好家も多いようです。

 より詳しく探求すると、古来の神話にも座敷童子の伝承との共通点を見出すことができます。伊勢神宮の外宮に祀られる豊受大神(トヨウケノオオカミ)は天照大神(アマテラスオオミカミ)の御饌(みけ)として食事の世話をする神であり、食にまつわる神様でもあります。『丹後国風土記』には、次のような話が伝わっています。

水浴びをしていた天女が老夫婦に羽衣を隠されたことで天に帰れなくなる。羽衣を隠した張本人である老夫婦の世話になった天女は病の治るお酒の作り方を教えるなど、老夫婦の暮らしを良くするために尽くした。ところが老夫婦は欲により天女を追い出してしまう。追い出された天女は奈具の村に住まい死後、トヨウカノメカミとして奈具社の祭神となった。

 物語には老夫婦のその後は描かれていませんがお酒の作り方が女神による恩恵だとすれば想像に難くはありません。このほかにも、奥津彦命(オクツヒコノミコト)と奥津姫命(オクツヒメノミコト)という二柱の神もあります。この二神はかまどの神様で直接的に家の神とは言えませんが、双子の形で現れる座敷童子に通じるところもありますね。

メディア作品に見る座敷童子

 恐ろしくも福をもたらすという性質から人々に親しまれる座敷童子は漫画やアニメだけでなく、書籍や映画にも多く登場します。2007年に小松江里子先生の脚本した「どんど晴れ」はヒロインの浅倉夏美(あさくらなつみ)に座敷童子の面影を重ね老舗旅館での人々の交流を描く作品です。また、2008年に出版された萩原浩先生による『愛しの座敷わらし』では、都会からやってきた家族と座敷童子の交流を通して家族の再生を描く作品となっています。2012年には『HOME愛しの座敷わらし』として映画化もされています。また、漫画作品では江口夏美先生による『鬼灯の冷徹』で都市化の進む現代社会に居場所をなくした双子の座敷童子が地獄に住み着き楽しく生活している様子が描かれています。

図録データ

力:3 いたずらの一環として大人を投げ飛ばすなど意外に怪力な一面も

知能:4 子どもと遊ぶことを楽しみ無邪気だが、家人の生活を観察し慢心していないか判断する知能がある

大きさ:2 一般に7歳から13歳程度の子どもの姿で描かれる

危険度:3 家にいつく間は幸せが訪れるが、家を離れると没落や命の危機を伴う

特殊能力:3 人間の運を左右する能力をもつ

遭遇率:小さな子どもが遭遇することが多く、大人には見えないこともある 会いたくても会えないため珍しい妖怪と言える

出現地域:岩手県や青森県を中心とした東北地方から関東にかけて

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