天邪鬼(あまのじゃく)

天邪鬼 もののけ図録
天邪鬼、天探女、瓜子姫

嘘と悪戯を好むひねくれ者で邪悪な鬼、その正体は…

 天邪鬼(あまのじゃく)、または、あまんじゃくは室町時代に書かれた御伽草子の一説『瓜姫物語』を初め、様々な物語に登場する妖怪です。人間の言葉を繰り返したり、言われたことと反対の行動をしたりして人を困らせることを好むとされています。その見た目や性質は物語により大きく異なっています。ただ言葉を繰り返す無害な存在や富士山を崩そうとする巨人のような姿、幼い姫を殺し成り代わろうとする逸話などさまざまです。共通するのは人々を困らせようと悪知恵を働かせる姿であり、物語の悪役として悪事を働いたり、退治されたりする妖怪といえます。

各地に伝わる伝承と来歴

 この妖怪が登場する『御伽草子』は、鎌倉から室町時代に成立した物語が多く、その頃から天邪鬼という人々の邪魔をする妖怪は人々に知られていたようです。物語の中で天邪鬼は瓜から生まれた姫に言葉巧みに近づき、姫になり変わることに成功します。

 実は、入れ替わり方は伝承のされ方に地域差があり、東日本の多くでは姫は殺害され、その着物と顔の皮を天邪鬼に奪われます。着物と皮を身にまとい姫になりすました天邪鬼は育ての親である翁と嫗に正体を明かし、両者は命を落とすという救いのない話となっています。

 一方で、西日本では、入れ替わった姫は木に縛り付けられており鳥が鳴き、天邪鬼の正体を明かすことで救い出されます。同じ話でも地域によって全く結末が異なっている点が興味深いですね。

 また、物語の中だけでなく、奈良県の法隆寺金堂にある「四天王立像」や東大寺戒壇堂の「四天王像」の足元に踏みつけられる天邪鬼の姿も伺う事ができます。こちらは仏教的な背景をもつ図像で、人々の煩悩を象徴する存在である天邪鬼を、仏教の教えを守護する四天王が踏みつけられること悟りや救いに至ることを表現していると言われます。像の作られた年代を考慮すると西暦600〜700年ごろから名前のある妖怪として認知されていたことになります。江戸時代以降に名前を獲得した妖怪と比べるとかなり古い時代から人々に知られた妖怪だったと言えるでしょう。

天邪鬼(あまのじゃく)の正体

 実は、天邪鬼の正体は、日本神話の時代にまで遡ることができます。日本の成り立ちについて記された神話『古事記』には地上界の界葦原中国(あしはらのなかつくに)の支配を、「大国主命(おおくにぬしのみこと)」から、天上界の高天原(たかまがはら)の神々に譲る「国譲り」という逸話があります。

 天上の天照大神(あまてらすおおみかみ)は大国主命に、地上の支配を譲るよう使者を送ります。ところが、使者たちは大国主命と仲良くなったり、その娘と結婚したりと大国主命の味方をするため、国譲りは上手くいきません。数年が経ち、天照大神は使者を諌めるために雉の鳴女(なきめ)を地上に遣わします。ところが、使者の天稚彦命(あめのわかひこのみこと)はこの雉を射殺してしまいます。

 この時、雉を射るよう唆した天探女(あまのさぐめ)という女神こそが天邪鬼の正体とされています。神からの言葉を捻じ曲げて伝え、トラブルを引き起こす性質は天邪鬼にも共通する点がありますね。天邪鬼が人の心を読む覚(さとり)のような力を持つのはこの女神の力が由縁とされることもあります。

天探女、鳴女、国譲り神話

メディア作品に見る天邪鬼

 昔から地域の物語に登場する天邪鬼はその悪役らしい性質から現代の漫画やアニメ作品、ゲームなどにも登場しています。水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』では大柄な赤鬼のような姿で描かれ、世を拗ねて捻くれた老人の魂と共鳴することで復活を遂げるエピソードやテレビ制作の裏側で暗躍し、人の不幸を笑いものにする番組制作に関わるなど、性格の悪いキャラクターとして描かれています。

 また、テレビゲーム「女神転生」では悪役として邪鬼アマノサガミが登場し、主人公の母親を食い殺し、成り替わるという『瓜子姫』の天邪鬼のような残虐な行為でプレイヤーを驚かせます。

 一方で、『ぬらりひょんの孫』では淡島という名前の天女と鬼神のハーフという天邪鬼が登場し、主人公の味方として活躍します。従来の天邪鬼とは異なる解釈で魅力的なキャラクターに仕上がっていますね。

図録データ(瓜子姫に語られる天邪鬼)

力:3 木に人を縛り付けるなどある程度の力をもつ

知能:3 ずる賢さはあるがすぐに見破られる変装や計画性の無さから知能は高くない

大きさ:2 幼い姫と入れ替わっても周囲が気づかない程度の体躯

危険度:3 イタズラの度がすぎると人の命を奪うことも残虐な性格を保つため油断は禁物

特殊能力:3 人間の心を読み神経を逆撫でする

遭遇率:日本の各地の物語や伝承に登場し、主に子どもを襲ったり、騙したりすることがある

出現地域:北海道、沖縄を除く日本全国に出没する

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