飛縁魔(ひのえんま)・縁障女(えんしょうじょ)、丙午(ひのえうま)

飛縁魔(ひのえんま)・縁障女(えんしょうじょ)、丙午(ひのえうま) もののけ図録
飛縁魔(ひのえんま)・縁障女(えんしょうじょ)、丙午(ひのえうま)

美しい姿で惑わし、堕落させる女性の姿をした妖怪

 飛縁魔は美しい女性の姿で現れ、男性を誘惑する妖怪です。「誘い出された男は精血を吸われ、最後には命を落としてしまう」と伝えられています。その名称は、俗説として知られる「丙午生まれの女性が男を食い殺す」から取られていると考えられています。

 古くから語られている妖怪ではなく、江戸時代後期ごろに書物に描かれ、世に知られるようになりました。ただし、仏教の教えでは、女犯(にょぼん)を戒める教えが説かれていました。様々な宗派の戒律や国の定める僧尼令(そうにりょう)においても同じように禁止されており、戒律を破った場合は、島流しや破門という処分が下ったようです。

 もちろん、時代によって戒めの厳しさは異なりましたが、江戸時代は幕府による寺社への統制も強まっていました。これらの時代背景を受けて、修行中の僧などが、女性の誘惑に対して自身を律することの大切さを説くための存在でもあったのかもしれませんね。

文献に見る飛縁魔、縁障女

 飛縁魔について伝えている文献は、天保12年(1841年)に桃花園三千麿先生と竹原春泉先生によって出された『絵本百物語 桃山人夜話』です。本書では飛縁魔について以下のように解説されています。

顔かたちうつくしけれども いとおそろしきものにて 夜なよな出て男の精血を吸、ついにはとり殺すとなむ

 人の女に迷ひ身を亡し 家を失う愚かさをさとしむ

飛縁魔、縁障女とも訓せど又外面似菩薩内心如夜叉とも説く

(中略)

 去れば 飛縁魔に魅入られし者 縁帯いふもさらなして 身の腎精浄血まで吸いとられついに これが為 命を失うなり

 原文においては、古代中国における夏の妺嬉(ばっき)、殷の妲己(だっき)、周の褒姒(ほうじ)らの正体も飛縁魔としています。これらの美女の正体は九尾の狐とされることもありますが、「男性を誑かし、堕落させる」という性質は共通していますね。

 しかし、元代の『全相平話』や明代の『封神演義』において、これらの女性の正体が「狐」として描かれているため、「妖狐として知られるかの美女らも飛縁魔だった」という解釈でいいのではないでしょうか。気になる方は国書データベースでも確認できます。

飛縁魔の正体(丙午について)

 飛縁魔の正体、起源については冒頭で触れた丙午の迷信が関係しています。

 丙午とは十干十二支の43番目にあたり、中国の陰陽五行に照らすと、どちらも火の性質を持つことから凶歳とされます。ただし、中国ではあくまで火難に気をつける程度の意味合いしかありません。この俗信が、日本に伝わる中で「丙午という年には良くないことがある」という漠然とした恐怖に変わっていったようです。

 では、なぜこの俗信が「女が男を食い殺す」という迷信に繋がっていったのでしょうか。一番の要因は、に井原西鶴先生の『好色五人女』などで有名となった「八百屋お七」にあると考えられています。これは江戸時代の天和2年(1682年)に実際に起きた事件をモチーフにして描かれた作品です。

 火事で焼け出された少女は寺での生活の中で一人の青年に恋をします。しかし、様々な理由から二人は添い遂げることができません。恋する人に会いたい一心から、「もう一度火事になればあの人に会えるかもしれない」と放火事件を起こし、火刑に処された少女。それがお七です。そして、「彼女の生まれ年が丙午だった」といつしか人々の間で噂になったのです。いつしか人々はこの年に子どもを孕らないよう注意するまでになった。迷惑な迷信ですね。

 最近の研究では、そもそもお七の生まれは丙午ではなかったと言われています。しかし、1906年、1966年と出生の時期を偽る人が出てきたり、そもそも出産を控え出生率が低下したりと、実際に悪影響が出ていることが、この迷信の厄介なところですね。

飛縁魔への対処法

 この妖怪に対する対処法はただ一つ。上辺の美醜に踊らされることのないよう、互いの本質を愛することです。他の宗教に通じますが、身体や容貌など、見た目の美に対する愛情は時と共に薄れ、やがて消えてしまします。色恋の入り口として相手の顔貌を好くのはわかりますが、その後、内面を愛せるようになれば、惑わされることがなくなるかもしれませんね。

 西洋のサキュバスやインキュバスのように具体的な対処法が伝わっていないのも、この妖怪の恐ろしさといえるかもしれませんね。

メディア作品に見る飛縁魔

 丙午生まれの女性としては、先ほどの『好色五人女』など、江戸時代の浄瑠璃や戯曲に多く取りいられていますが、飛縁魔としての活躍は以下のようになります。

 コーエーテクモゲームスのゲーム『仁王』においては九州地方闇の奥のボスとして登場します。背中に翼の生えた青紫色の肌をした女性の姿で襲いかかってきます。麻痺属性が付与されていて、対策をせずに挑むとなかなか倒すことができません。美女や火の要素はありませんが、「戦乱の中で虐げられた女性の怨念」という独自の解釈が述べられています。

 また、みなぎ得一先生による漫画『足洗い邸の住人たち』には大太解体魔人(だいだらかいたいまじん)として於七(飛縁魔)が登場しています。

 そのほかには、京極夏彦先生による『巷説百物語 飛縁魔』でも物語の主題として扱われていますね。男女間の揉め事はいつの時代にも事件のきっかけとなるものなのかも知れませんね。

図録データ

力:2 精気を吸い取る妖怪であり、膂力はないと予想される

知能:4 人間と意思疎通を図り巧みに男を堕落させる

大きさ:3 美しい姿の女性として現れる

危険度:4 取り憑かれると精気・精血を吸われ死に至る

特殊能力:4 男性を魅了し、精気を吸い取ることができる

遭遇率:江戸時代に江戸の街を中心に噂は語られるが一次資料に乏しい

出現地域:古代の中国、江戸

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